履を鳴らして、丹波を追って行ったが、途中から向きを変えて神田の帯屋小路へ。
 先方に援軍が来るなら、こっちにも援軍が必要だ。そうだ、自宅《うち》の喧嘩屋にゴロゴロしている神尾さんと、それからあの、いつかの晩のヒョンな髪引きが縁になって、腕貸しの約束をして下すった、辻説法の釣魚狂《つりきちが》い、無宿《むしゅく》の心学者《しんがくしゃ》魚心堂先生《ぎょしんどうせんせい》にお越しを願おう――知らずのお絃、白ちりめんの蹴出《けだ》しが闇黒《やみ》におよいで、尻っぽに火のついた放れ馬のよう、それこそ、足もと知らずにスッ飛んで行く。
「いや、それは。押し出してブッタ斬れと言われれば、ブッタ斬りもしようが――」
 造酒《みき》は、こう言いさして、ジロリと客を見た。
 ちょうどそのとき。
 それは源助町、無形一刀流道場の剣主、神保造酒の奥座敷である。
「有情無形《うじょうむぎょう》」と大書した横額《よこがく》の下に、大身の客のまえをも憚《はばか》らず、厚い褥《しとね》にドッカリあぐらをかいている、傲岸不遜《ごうがんふそん》、大兵《だいひょう》の人物、これが源助町乱暴者の隊長とでもいうべき神保造酒先生
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