から抜け出て来て、ナニ、じぶん独りで見ているものはないのだが、それでも、あちこち隠すように流し場へ片膝つく。磨き立てて見せたい相手はいなくても、女の身だしなみだ。セッセとそこここ洗いにかかっている。白絹の膚《はだ》が、湯のあたたか味でポウッと桜いろに染まり、ふくよかな肉体が様々の悩ましいポーズを作り出す。
美女入浴之図《びじょにゅうよくのず》。まことにエロチックな風景……だが、この日頃、なやみの多い彼女だ。
喬之助様がいらしったら――思うのはこのことだけである。思わず、洗いかけていた手を休めて、ホッ! 小さな溜息になった時。
もう一度、川柳子曰く……跫音《あしおと》のたびに湯殿で嫁しゃがみ。
その、世にも恐るべき跫音が、ゴソリ、焚口の前でしたから、ハッ! とした園絵が、本能的に小さく屈《かが》み込むと、
「御新造さま、ぬるくァござんせんか。ちっと焚《く》べますべいか」
あの喬之助の刃傷以来《にんじょういらい》、難を恐れて暇を取って行った召使いの中で、たったひとり残って家事の面倒を見ていてくれる若党《わかとう》忠助の声なので、園絵は安心をして、
「いいのよ。くべなくてもいいわ」
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