は浅香だが、そういう尊公《そんこう》は――」
「神尾喬之助」
「ナ、何イ……神尾――」
 抜いたのは同時だったが、虚心流《きょしんりゅう》捨身《すてみ》の剣の前に、四人の供は忽《たちま》ち地に反《そ》って……身を捨ててこそ浮かぶ瀬《せ》もある喬之助の強刃《ごうじん》、白蛇《はくだ》のごとく躍《おど》って慶之助に追い迫った。――じつに二番首は、この浅香慶之助であった。
 それから数刻《すうこく》の後《のち》。
 深夜である。神田帯屋小路の喧嘩渡世、茨右近方へ帰り着いた喬之助、べつだん疲《つか》れたようすもない。右近《うこん》と知らずのお絃《げん》は、この夜ふけまでどこへ行っているのか、家には誰もいなかった。
 壁《かべ》には道場の貼出《はりだ》しのように、名を書き連《つら》ねた一枚の巻紙が貼ってあるのだ。
[#巻紙の図(fig45670_01.png)入る]
 その、大迫玄蕃と浅香慶之助のところへ、喬之助が前記の如く抹殺線《まっさつせん》を引いて、一番首二番首と書き入れをした時、おもてに、三|梃《ちょう》の駕籠《かご》が停《と》まった。

   妖説《ようせつ》逆屏風《さかさびょうぶ》

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