庵、何事? と家の中へ引っ返しながら、気がついてみると、いま渡された西瓜《すいか》のような物を大事そうに持っているから、上り口の行燈《あんどん》に照らしてよく見てみようとした。
が、よく見る必要はなかった。ぎゃおッ! と、不思議なおめき声をあげると同時に、長庵、その貰い物を土間へ抛り出して、自分は、弾《はじ》かれたように壁へ倒れかかった。長庵の手からころがり落ちた生首――大迫玄蕃の首は、つい先刻《さっき》まで自分がはいていた下駄《げた》の上にトンと載《の》っかって、おい長庵、おれアこんな情けねえことになったよ、と言わんばかり、不思議そうにまじまじと長庵を見上げているぐあい。
下駄《げた》をはいた生首《なまくび》――。
あまりの妖異《ようい》さに、長庵は暫時《ざんじ》声を失ったが、やがて、夢中に同じ言葉をわめき立てていた。
「やッ! 殿様が! 殿様がッ――」
九
「何? 大迫の屋敷から仁平《にへい》が使いに参った? ふウム、急の用と申す。苦しゅうない。庭へ通せ」
書見《しょけん》にでも飽きたか、同じく御書院番の一人で浅香慶之助、三十四、五のちょいとした男ぶりだ。縁
前へ
次へ
全308ページ中149ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング