なら、疾《と》うに気がついておらねばならぬ――すると、それ以来、一歩も部屋を出なかったか? 出なかった! ずうッとここにおって、謡曲《ようきょく》をさらっておった。ハテ、たった今、厠《かわや》へ立ちはしなかったかナ――お! そうだ、いま厠へ行って帰って来たところだ! うウム、さてはその間に何者か忍び入って――だが、しかし、忍び入ってと申して、一体どこから忍び入ったというのだ。戸じまりはあの通り、さっき仲間《ちゅうげん》が手分けをして見て廻ったではないか――。
ことによると、戸締りをする以前《いぜん》から密《ひそ》かに這入っておって……うフフフ、そも何者がこの屋敷へひそかにはいっておるというのじゃ?
大迫玄蕃は、床《とこ》の間へ行って刀を取り上げながら、自分でもおかしくなって、瞬間《しゅんかん》、ふッとせせら笑った。
と、誰が――誰がとは何じゃ? きまっておる! あの、神尾喬之助に決まっておるではないか――玄蕃の顔に、浮かびかけた笑いが凍《こお》った。
手の、佐平太兼政お猿畠《さるばたけ》の大刀を見る。滅多捲《めったま》きに捲き締めて、強く固く綱口《つなぐち》を結んであるのだ。急
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