式がある。お白書院がこれに相伴《しょうばん》する。御三家が済んで、御連枝溜詰《ごれんしたまりづめ》、大広間|譜代《ふだい》、柳間出仕《やなぎのましゅっし》、寄合御番《よりあいごばん》、幸若観世太夫《こうわかかんぜだゆう》と順々に装束を正して将軍拝賀に出る。それこそ絵のような景色である。
兵馬《へいば》はすでに遠い昔の物語である。世の中はのんびり[#「のんびり」に傍点]している。こういうことにでも大げさな儀礼をつくし、式例を立てて騒ぐのでなければ生甲斐《いきがい》がないと言っているように見えるのである。町方はまたそれぞれの格式で年賀の礼に廻る。江戸中の商店は戸を閉ざして休んでいる。千鳥足が往く。吉方詣《えほうまい》りが通る。大川の橋や市中の高台に上って初日を拝する人が多い。深川の洲崎《すさき》にはこの群集がぞろぞろ続いている。と言ったどこまでも呑気《のんき》な世風である。
のんきはいいが、言い換えれば、退屈でしようがないともいえる。ことに、大した落度《おちど》がない限り、世襲の禄を保証されて食うに困らない役人などは、自然、閑《ひま》に任せて、愚にもつかないことで他人を弄《ろう》し楽し
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