が大変ごとだった。
 泣いていたと思った喬之助は、泣いていたのではなくて、顔を伏せて笑っていたのだ。そして、一同を尻目《しりめ》にかけて、控所《ひかえじょ》を出て行った。止せというのに、戸部近江之介が後を追った。と、間もなく、その近江之介の首が溜《たま》りへ投げ込まれて、喬之助は、それ以来、厳《きび》しい詮議の眼を掠《かす》めて、今に姿を現さぬのである。
 さぞこの俺を恨《うら》んでいるだろうな。じっさい、あの喬之助だけは見損《みそこな》った。女子を嬉《うれ》しがらせるほか能のない、生《なま》ッ白《ちろ》い青二才とばかり思い込んでおったのが、あの、俺に髪を取られた顔を上げた時の、豪快な笑い声はどうだ! また、相当|腕《うで》の立つ近江之介殿をあッ[#「あッ」に傍点]と言う間に文字通り首にしたばかりか、大胆《だいたん》といおうか不敵《ふてき》と言おうか、城中番所の窓から抛り込んでおいて逐電《ちくでん》した喬之助のやつ、恐ろしく出来るに相違ないのだ……。
 虫の知らせというのか、大迫玄蕃は、その神尾喬之助が、どこからか、今度は自分の首を、日夜|狙《ねら》っているような気がしてしようがないの
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