平馬と鶯
林不忘

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)棚引《たなび》いて

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)井上|伊予守《いよのかみ》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)ぶらり[#「ぶらり」に傍点]と
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   鶯の宿

 麗かな春の日である。
 野に山に陽の光が、煙のように漂うのを見るともなしに見ながら、平馬は物思いに沈んで歩いていた。振り返ると、野路の末、雑木林の向うの空に、大小の屋根が夢の町のように浮んで、霞に棚引《たなび》いているのが見える。平馬の藩である。行手にもまたほかの町が見えていたが、平馬はべつにそこへ行くためにこの春の野の一本道を辿《たど》っているわけではなかった。
 ただどこというあてもなしに、歩きながら考え、考えながら歩くつもりでぶらり[#「ぶらり」に傍点]と家を出て来た平馬である。暖かい太陽の光を背中いっぱいに受けているうちに、いつしか半分眠っているような心持で、この方角へ足が向いたのだった。
 平馬。年齢十五歳。身の丈《た》け五尺五寸あまり。顔色あくまでも黒く、眼大きく、鼻高く、一文
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