ったが、まだ元服前のために、むざむざと引っ込んで味方の負けるのを見ていなければならなかったのである。だが、それも去年まで!
 平馬、今年十五歳、元服して大人になった姿はじつに凛々《りり》しい武者ぶりであった。
 下妻の若侍たちは、平尾出場の噂に、仕合に出ない先からもう負けたつもりで銷沈《しょうちん》している。
 このとおり敵に恐れられている平馬は、じっさい人が怖がるのも無理もないほど、鍛えに鍛えた逞《たくま》しい体力と鉄石のような負けじ魂と加うるに、この数年師匠を驚かすくらいに上達した北辰一刀流の剣技――この三つの権化《ごんげ》であった。
 この武骨の平馬、やさしい鶯が縁になって、その鶯よりも優しい飼主の少女と今こうして庵《いおり》の竹縁に腰をかけて話している。
 庭いっばいの日光に、苔《こけ》の匂がむせかえるようだ。

   闇討の相談

「ホウホケキョ!」
 と、また鶯が鳴くと、少女は、平馬の顔を見てはにかむ[#「はにかむ」に傍点]ようににっこりした。
「可愛い鶯でござりましょう。私は大事にして飼っているのでございますが、ずいぶん声のいい鶯だとおっしゃって、皆様が賞《ほ》めて下さいます。さっき籠の掃除をしようと思って、手を入れた拍子に逃げたのでございますが、でも、あなたが捕えて下さいまして、ほんとうにありがとうございました。きっと、もう遠くの山へでも飛んで行ったものと思って、私はがっかりしながら念のために外まで見に出たところでございました」
 平馬も親しそうに微笑《ほほえ》みながら、
「いや、お礼をおっしゃられては困ります。拙者が鶯をつかまえたのではなくて、うぐいすが拙者を捕えたようなものでした。ぶらりと何心なくお宅の前を通りかかると、あの鶯が飛んで来て拙者の手の甲にとまった、はははは。それだけのことです」
 こう言って平馬は、はじめて気がついたように、珍しそうにそこらを見廻した。武士の住居らしく、小さいながらもきちんと片付いて、気持の好い家である。はてな?――ここはどこだろう。平馬がこう思っていると少女は不思議そうに平馬のようすを眺めていたが、やがて、
「あの、あなた様はどちらの――?」
 同時に平馬の方からも問いを発した、
「ここはどこです?」
「下妻でございます」
 これを聞くと平馬は、ちょっとびっくりした。今度の仕合にどういう手で立ち合ったものかといろい
前へ 次へ
全12ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング