内に登って、遙か山伏山の裾野の田万里に別れを惜しみ、その時、この三人の間で、出羽殿への復讐を固く誓ったので――神前に額ずいて、三人同時に金打《きんちょう》いたしてござる。」
 大次郎は、そう言って頭を低《さ》げた。
 力を得よう!
 毒には毒! 無法の力に抗する無法の力。
 この三羽烏の力を合わせて、他日必ず出羽守を討ち取り、父、母、姉、村人の恨みを霽《は》らす。
 その力は、何によって――?
「ここです! 毒に報ゆるに毒、無法の力に抗する無法の力――という、その毒、その無法の力とは、さ、何か――?」
 となって、三人寄れば文珠《もんじゅ》の智恵、伴大次郎、江上佐助、有森利七の三人が、あたまを鳩《あつ》めて考えた末。
 その時、神前の三人に期せずして閃めいた想念は、
「煩悩《ぼんのう》」――の二字!
 毒とは? ――煩悩!
 無法の力とは?――煩悩!
 畢竟《ひっきょう》、人間の力は、これ煩悩の一語につきる!
 この解釈《げしゃく》を得て。
 田万里をほろぼしたのは、荒れ狂う出羽守の煩悩悪血。
 それに返すに、この主人の煩悩力をもってする!
 煩悩力!――煩悩のちからほど、人を強くするものはあるまい。
 これは、三人にとって、三国神社のお告げとも思われた。
 お山の神様は、荒い神さまである。
 山の若者の復讐は、炎烈《えんれつ》、野火のごとくに激しいのである。
 この時から、煩悩の語は、三羽烏の執念となった。

     笹籤

 出羽守の煩悩に焼き払われた焦土の灰から、ここに、三つの煩悩の相《すがた》が立ち上ったのだ。
 煩悩で煩悩を制すべく。
 さて、名も金もない非力の三人が、煩悩によって金剛の力を獲るとは――?
 名も金もない――そうだ!
 男の煩悩に、三つありはしまいか。
 名、金、そして女。
 名誉慾。黄金慾。女慾――。
 人を動かす原因《もと》にこれ以外のものはなく、また、これ以上の力はない。有史以来、人間はこの三つの煩悩に駆《か》りたてられて、われも人もこの三慾のためにこそ、孜々営々《ししえいえい》と生命を削《けず》る歩みをつづけてきたのだ――現世は、名、金、おんなの煩悩三つ巴《どもえ》。
 男として、この三つを獲たものを強者という。
 祖父江出羽守は、この三つを三つとも有《も》っているではないか。名はもとより、金も、そして、女も。
 で、三人が三つの
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