締め殺した文字若は、それだけ細工を施した死体をそのままに、自分は両肩に綱を廻し、その上から、前もって用意しておいた、姉と同じ丹前を羽織って姉の美野になりすまし、二階のてすりを潜らした綱の一端を手に、軒下にぶら下って――。
「そこで、足で雨戸を蹴って初太郎を起こしたんだ。」
「ははあ、髪まで同じいぼじり[#「いぼじり」に傍点]巻きだから、こりゃあ誰でもお美野さんだと――。」
「面を見せねえように、うしろ向きに下がっていたてえことを忘れちゃいけねえ。おまけに、手を手繰って屍骸がのし[#「のし」に傍点]上がると見せかける。初太郎と宇之吉が胆をつぶして二階へ駈け上っている間に、悪才《わるざい》の利く阿魔《あま》じゃあねえか。おのれは、すとんと初太郎の部屋の縁へ降り立って、帯を解いてよ、二階の干台に長く二本に掛けてあるやつをするする[#「するする」に傍点]引き下ろしてこっそり自室《へや》へ飛び帰ったに違えねえ。このとおり泥を吐くから見ていな――すっかり衣裳をあらためて、初太郎宇之吉が姉の屍骸を見つけた頃合いを見計らい、眠呆《ねぼ》けづらを装《つく》って二階へ上って行ったのよ。だが、階下の縁へ飛び下りた拍子に、足の裏に敷居の胡麻油が付こうたあ、はっはっは、彦、この落ちあどうでえ、これこそ真実《ほんと》に、とんだことから足がついたってもんだぜ。」
底本:「一人三人全集1[#「1」はローマ数字、1−13−21]時代捕物釘抜藤吉捕物覚書」河出書房新社
1970(昭和45)年1月15日初版発行
入力:川山隆
校正:松永正敏
2008年5月20日作成
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