隊の小頭格だ。からだが明《あ》くと、休養かたがた江戸見物に呼ばれて来て、何カ月もぶらぶらしている。そうかと思うと、ふっと、帰国《かえ》されて、また焼津の浜から船へ乗り込んで、どこへとも知らず錨を上げる。
海で育った惣平次とは、話が合うのだった。
今度は、わりに長く江戸にとどまっていて、神田|筋違御門《すじかいごもん》ぎわの修理太夫の下屋敷から、こうして三日に上げず、この惣平次の番所へ遊びに来るのである。
いつも親子三人を前に、いろいろ話しこんで行く。海の冒険談、そういったものが主で、江戸育ちの庄太郎には、珍しかった。
それが、急に、もうじき豊後へ帰郷《かえ》ることになったというので、庄太郎は、名残り惜しそうに、
「また海へお出になるのでございましょうね。このたびは、どちらへ? 唐天竺《からてんじく》でございますか。それとも、南蛮《なんばん》とやら――。」
「いや、」久住は、首を傾げて、「南蛮まで伸《の》すことはござらぬが、しかし、それもわからぬ。どこへ参るのやら、船出した後までも、われわれ下役には、御沙汰のないのが常でな、とんと見当がつき申さぬよ。」
木の瘤《こぶ》のような肩
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