ねえやな。ちょいと、絞め殺されただけよ。全体、場ふさぎな図体をしやあがって、から[#「から」に傍点]だらしがねえじゃあねえか。なあ、円枝師匠、ははははは。」
「じょ、冗談じゃあねえ、親分」円枝は、どぎまぎして、それでも、嬉しそうに、「若いものを持ち上げなさるのは、罪でさ。あっしは、まだ師匠なんて言われる身分じゃあございません。」
 言いながら、ちらとおこよを顧みた円枝の眼に、押さえきれない誇らしい影のあるのを看て取った藤吉は、これは、円枝はこの女に大分心を動かしているな、ことによると、このふたりのあいだに――と、ひそかに結びつけて当りをつけながら、何気なく藤吉が言葉を向けたのは、うしろにいる席主の幸七へだった。
「この梅の家の踊りてえのは、もうじきすむんじゃあねえのかえ。」
「へえ、もう下りますころで。」
「屍骸を見せずに、この部屋から、むこうの溜りへ帰すようにしな。廊下を通らしちゃあいけねえ。」
 そういっているところへ、高座の上り口が開いて、眼のまえに華やかな色彩《いろ》が揺れ動いたかと思うと、梅の家の女たちが四、五人、がやがや言って廊下へ降りて来た。
「おい、つぎは花さんだ。」幸
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