筋に変な物が下りて来て、うしろから抱きつかれたんではっ[#「はっ」に傍点]とした。とたんに、咽喉へ紐が来たんで、あわてて取ろうとする。なかなか人形の力なんかで、あの力持ちが死ぬわけはない。これは、驚いて※[#「足へん+宛」、第3水準1−92−36]《もが》いた拍子に、われとわが大力で自分の首を締めつけて呼吸がとまったんでごわすから、たまげたのと、除ろうとする腕力《うで》のはずみとで、ねえ、親分、武右衛門さんは、結局《つまり》、自滅ということになりゃあしませんかい。どうもわたしは、そんな気がしてならねえんだが――。」
 いま楽屋入りして、騒動を聞いたばかりの、真打ちの軍談師伯朝だった。
 古今の名人竹久紋之助を、その純情の罪から救いたい一心で、哀願が、伯朝の顔いっぱいに書かれてあった。
 これが、藤吉にも、何とかして助けたいと、ひそかに望んでいた機会となったに相違ない。
「おや、こりゃあ横網の大師匠ですかい。」
 と、眼でうなずきながら――紋之助の肩に手をかけている葬式彦兵衛を、やにわにかれは、大声に呶鳴りつけた。
「やい、彦! 手を放せ。紋之助師匠とおこよさんの高座じゃあねえかッ!」



底本:「一人三人全集1[#「1」はローマ数字、1−13−21]時代捕物釘抜藤吉捕物覚書」河出書房新社
   1970(昭和45)年1月15日初版発行
入力:川山隆
校正:松永正敏
2008年5月20日作成
青空文庫作成ファイル:
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