は、邪魔をするだけ――。」
「おこよさん、」藤吉は、ちょっと改まった。「おいらあ、こんな厄介な探索は初めてだ。手も足も出ねえありさまだが、どうですい、あの武右衛門てえ野郎のことを、もそっと聞かしちゃあくれめえかの。」
「武右衛門さんのことって、あたしは何も知りませんけれど、なんでも、みなさんと仲が悪かったようでございますよ。もう仏ですから、あしざまに言うのはなんですけれど、ほんとに、厭なお人でござんした。」
「ふうむ、どうしてまた、そんなに厭《きら》われたんで――。」
「どうしてと申して、」と、おこよはちょっと逡巡《ためら》ったが、「女好きで、そのうえ、自分は大の色男のつもりで――うるさいったらないんです。」
「あの男は、今度越後の山奥とかから出て来て、ここで初めて顔が合ったんじゃあねえのかえ。」
「仲間の種《たね》を割るようですけれど、死んだ人ですから構いません。いいえ、今度はじめて出て来たどころか、いままで何年となく、上方《かみがた》からあちこち巡業《まわ》っていた人ですよ。わたしたちも、ずいぶん方々で会いましてございます。」
「そうかい。そんなことだろうと思ってた。」
 藤吉が考え込むと、おこよは、問わず語りにつづけて、
「円枝さんとも、よく旅で一座しましたが――。」
「ふうむ。その円枝さんとは、武右衛門がおめえに色眼を使うんで、たびたび鞘当てがあったことだろうの。」
 おこよは、うつむいた。紋之助師匠が、すこしむっ[#「むっ」に傍点]としたような口調で、
「あんまり詰らないことを、お訊きにならないように――。」
「あっしが訊くと思うと、腹が立つ。」藤吉は、にっこりして、
「が、役立《やくだち》が訊かせると思うと、こいつあどうも、腹が立ったところで、しようがねえ。まあ、師匠、そんなようなもんだ。」
「でも――、」おこよは、ぎょっとしたように、顔を上げた。
「あの時、円枝さんはずっと隣りにいて、それに、あの方は、人殺しをするような、そんな――そんな野暮ったい――。」
「親分さん――、」紋之助と話していた円枝も、向うから口を入れた。「あっしを疑うなんて、そりゃあんまりひでえや。あっしは親分――。」
「おう、そこにいたのか。まあさ、おまはんは黙っていな。」
「黙っていろも、ことによりますよ。人気商売だ。人殺しだなんて言われちゃあ――。」
 客席《おもて》に、笑い声が
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