っていることが、誰からともなくすぐ伝わったとみえて、急に、女どもの白い顔に、恐怖が来た。
藤吉は、その、一列にならんでいる梅の家連中を、覗って、例の眇《すがめ》で、右から左へ、左から右へ、二、三度じっと、撫でるように見渡していたが、やがて、口の隅から呟くように、
「踊りてえものは、難かしゅうごわしょうな。」
一応、調べられる――と思っていたのが、藪から棒に、この問いだったので、女たちは、変に拍子抜けがして、いそいで互いに顔を見合った。金魚のように、長い袂をゆすって、笑いかけた女もあった。ひとり、少し年長《としかさ》らしいのが、
「はあ。でも、親分さんなどは、お器用でいらっしゃいますから――。」
「はい。おいらだってこれで、まんざらでもねえのさ。」
こういって藤吉は、やにわに、妙な恰好に両足を動かして、踊りの身振りのようなことをして見せた。
梅の家連は、武右衛門の死を忘れて、きゃっきゃっと笑いこけて奥へ駈けこんで行くし、幸七も、ぷっとふきだしたが、本人の藤吉と彦兵衛だけは、にこりともしなかった。
七
「円枝さんは、先に引っ込んだ。おこよさんは、ここで、紋之助師匠と話しこんでいなすったのだね。」
藤吉は、まだそこにぼんやり立っていた円枝とおこよへ、声をかけた。
円枝が、きょとんとして、答えた。
「へえ。あっしは、武右衛門さんに高座を渡して、ずっとこの裏の溜りで馬鹿っ話をしておりました。すぐ帰るつもりだったんですが、来る途中、下駄の緒を切らしてしまって、楽屋番の銀おやじがすげて[#「すげて」に傍点]いてくれるんですけれど、それがなかなか立たねえので――今も、待っているところでございます。」
おこよは、静かな眼を藤吉の顔に据えて、しとやかにうなずいた。
「おまはんに訊くが」と、藤吉はおこよへ、「廊下に、誰も見かけなかったかね?」
「はい。武右衛門さんが高座を下りて、この前を通って行ったきりで――。」
「そりゃあわかってらあな。」
「しばらくして、藤吉どん――出方の藤どんが、おもてから来たようでしたが、そのとき、師匠と一しょに、わたしはこのつぎの間の化粧部屋へはいりましたので、後のことは――。」
「いまはじめて武右衛門の――騒ぎを知りなすった?」
「さようでございます。」
おこよと円枝が、一緒に答えると、藤吉はじっと口びるを咬んでいたが、
「竹
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