釘抜藤吉捕物覚書
怨霊首人形
林不忘

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)紅葉《もみじ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)髪結|海老床《えびどこ》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「米+巨」、第3水準1−89−83]
−−

      一

 がらり、紅葉《もみじ》湯の市松格子が滑ると、角の髪結|海老床《えびどこ》の親分甚八、蒼白い顔を氷雨《ひさめ》に濡らして覗き込んだ。
「おうっ、親分は来てやしねえかえ、釘抜の親分はいねえかよ。」
 濛々と湯気の罩《こも》った柘榴口《ざくろぐち》から、勘弁勘次が中っ腹に我鳴り返した。
「なんでえ、いけ騒々しい。迷子《めえご》の迷子の三太郎じゃあるめえし――勘弁ならねえ。」
「や、そう言う声は勘さん。」甚八は奥の湯槽を透《すか》し見ながら、「へえ、藤吉親分に御注進、朝風呂なんかの沙汰じゃあげえせん。変事だ、変事だ、大変事だ!」
「藪から棒に変事たあ何でえ。」
 言いさす勘次を、
「勘、わりゃ
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