第五の意趣返しであろう。そうだ、意趣返しに相違ない、と一旦は景気づいてもみるが、つぎの刹那、藤吉はまた手の着け場所のない無明《むみょう》の闇黒《やみ》に堕ちるのだった。
今日は六月末日、年の半期である。伊兵衛め、例によって元利耳を揃えろの、せめて利息だけは入れろの、さもなければ証文の書換えじゃのと、さんざ一日いじめ抜いて歩き廻ったことだろうが、してみるとこれは、そのいじめられた一人の仕業と決めてかかったところで、ここで困ることには、独り者の伊兵衛、普段から商売向きには人の手を借りたこともなければ藉したやつもないから、どこどこに貸金《かし》があって証文がどうなっているのか、今日はどっちを廻ったのか、肝心の本人がこうなっているとそこいらのことが一切わからない。ことに、異志を挾んでいた者が浜の真砂のそれならなくに目当ばかりたくさんあって星のなかからほし[#「ほし」に傍点]を指せというのと同一轍、洒落にはなろうが、さて骨だ。夜更けて帰宅《かえ》る金貸し老爺、何しに町筋を外れて木槌山のかげへ立寄ったろう? ほかで射殺してここへ運んだものか。それにしては提灯などが落ちているのが呑み込めない。それ
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