ろ。」
「え? お出ましでごぜえますか。」
「うん。」
「どちらへ。」
「はて、そいつあ甚右衛門に訊いてくんねえ。」
「だが親分、高が犬ころが逆上《あが》ってるだけ、それにこの大暴風雨、悪いこたあ申しませんぜ、お止めなすっちゃいかがですい。」
「こう、乙に理解《りけえ》をつけやがったのう。俺らあな、虫の報せがあるんだ。あらしがなんでえ、何で、なあん[#「なあん」に傍点]でえ! へん、紙子細工や張子《はりこ》の虎じゃあるめえし、べら棒め、濡れて落ちるよな箔じゃあねえや。柄にもねえ分別するねえ。」
親分藤吉一流の手だ、こう真正面《まとも》にどや[#「どや」に傍点]しつけられては、江戸っ子の手前勘次と彦兵衛、即座に仏頂面《ぶっちょうづら》を忘れて、勇みに勇んで駈け出さざるを得ない。彦の合羽の裾を銜《くわ》えて、甚右衛門が先に立った。
しかし、いざ出て来てみると藤吉も内心ちょっと後悔した。思った以上の嵐である。それに、何を言うにも相手は犬のこと、当てが外れても文句の持って行きどころがない。と言って、今さら帰るわけにはなおさら往かない。釘抜藤吉、無理にも最初《はな》の見得《けんとく》を守り立
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