返《こねかえ》すようだった。つい先ごろ、裏に味噌蔵を建てたついでに家の周囲を地均《じなら》ししたばかりなので、八州屋を取り巻いて赤い粘土が畑のようにぼくぼく[#「ぼくぼく」に傍点]うねって、それが雨を吸ってほどよく粘っていた。昨日までの凸凹は真夜中の雨に綺麗に洗われて、平になった土の表面には、家へ向って左手の露地伝いに、まるで彫ったように深い、そしてたしかに三時《みとき》は経ったと思われる足駄《あしだ》の歯跡が、通りから裏口の方へ点々として続いているのが、遠くから藤吉の眼にはいった。
 藤吉は振り向いて小僧の足を見た。裸足《はだし》である。急ぎ八州屋の前に立つと、二つの小さな裸足の跡が大戸の潜りを出て、そこの一、二尺|柔土《やわつち》を踏んで一つは左一つは右へ別れたさまが、手に取るように窺《うかが》われる。藤吉は唸《うな》った。
「おうっ、小僧さん、長どんてなあお前より三つ四つ年上で、これも裸足で突ん出たろう。ええおう?」
 勘次彦兵衛に挾まれてこの時追いついた小僧は、言葉も出ないようにただ頷首《うなず》いた。
「二人ともでかしたぞ。」
 とにっこりした藤吉は、何思ったかやにわに履物を
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