駈けつけたというほか、主人はいつどうして殺されたのか、小僧には皆目《かいもく》解っていなかった。ただ、屍骸は裏の味噌蔵に転がっている、とだけ泣声で申し立てた。
「やい、味噌松てものがいるのになぜ桜馬場へ訴人しねえ? 勘弁ならねえ。」
いまいましそうに勘次が言った。
「藤吉親分の繩内《なわうち》だからまず八丁堀へってお神さんが言いましたもの。」
「じゃ、これから駒蔵を呼びに走るんだな?」
「いえ、長どんが行きました。なんでもかんでも駒蔵の親分に出張ってもらわなくちゃあ、って松さんが頑張るもんですから――。」
「長どんてなあもう一人の小僧か。」
「へえ。」
「お前と一緒にお店に寝てたのか。」
「へえ。」
「屍骸《たま》あ発見《めっ》けたなあ誰だ?」
調子に乗った勘次がこう小僧をきめつけた時、
「勘、黙って歩け。」
と藤吉が振り返った。勘次は頭をかいた。
雨に濡れた町に朝の陽が照り出した。昨夜二時ばかり底抜けに降った豪雨をけろり[#「けろり」に傍点]と忘れたように、輝かしい光りが家並の軒に躍り始めた。一行の上に重苦しい沈黙が続いた。
早や金色に晴れ渡った空の下に、茅場町の大通りは捏
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