がの、それにゃあ及ぶめえだの、も少し待ってくれのって、へえ、大層《えかい》奇天烈《きてれつ》なあわてかたでしたぜ。足形のねえ工合いと言いこの言草といい、わっちはどうも昨夜降る前から泊込みの野郎があると――。」
「松さん、あまりなことをお言いでないよ。」
 口惜しそうにおみつが白眼《にら》んだ。その眼を見据えて藤吉はただ一言。
「久松留守。」
 俯向くおみつ。藤吉は居丈高に、
「旦那は年齢《とし》が年齢だ。なあ、それにお前さんはその瑞々《みずみず》しさ。そこはこちとらも察しが届くが、それにしても久松留守たあよくも謀《たくら》んだもんさのう。」と一歩進んで、「飛んだ久松の孫右衛門さ。旦那のいねえ夜を合図で知らせて、引っ張り込んでた情人《いろ》あ誰だ? 直《ちょく》に申し上げた方が為だろうぜ。」
「お神さん、もういけねえ。誰だか言いな。よう、すっぱりと吐き出しな。」
 傍から味噌松も口を添える。おみつは唇を噛んだ。間が続く。
 と、この時、梯子段下の板間《いたのま》で一時に起る物音、人声。
「いた、いた。」
 という彦兵衛の叫び。と、揚覆《あげぶた》の飛ぶ響き。
「うぬっ!」と勘次。
 やが
前へ 次へ
全30ページ中22ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング