釘抜藤吉捕物覚書
三つの足跡
林不忘

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)祇園《ぎおん》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)両三日|行方不識《ゆくえしれず》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「口+伊」、第4水準2−3−85]
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      一

 紫に明ける大江戸の夏。
 七月十四日のことだった。神田明神は祇園《ぎおん》三社、その牛頭《ごず》天王祭のお神輿《みこし》が、今日は南伝馬町の旅所から還御になろうという日の朝まだき、秋元但馬守《あきもとたじまのかみ》の下屋敷で徹宵酒肴《てっしょうしゅこう》の馳走に預かった合点長屋の釘抜藤吉は、乾児の勘弁勘次を供につれて本多肥後殿の武者塀に沿い、これから八丁堀まではほんの一股ぎと今しも箱崎橋の袂へさしかかったところ。
「のう、勘、かれこれ半かの。」
「あいさ、そんなもんでがしょう。」
 御門を出たのは暗いうちだったが、霽《は》れて間もない夜中の雨の名残りを受けて、新大橋の空からようや
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