に、あるべき古図のないことを知ったとき、越前守は、一度は驚き、失望もしたが、たちまち、何か思い当たったことがあるらしく、
「ハハア、そうか」
 と、言った……。
 そしてまた。
 愚楽老人も、さっき自分の部屋で、壺の中がからっぽと聞いて、しばらく考えたのち、これも同じように、何か考えがあるとみえて、
「ハハア、そうか」
 とうなずいたが……。
 馬鹿な人間の考えることは、たいがい同じようなものだが、知者の知恵も、また似たようなもの。
 この天下の知恵者が二人まで、ハハア、そうかと、自信ありげにほくそえんだのですから、まだ悲観するのは早い。秘密の地図は、壺のどこかにかくされてあるのだろうけれど。
 これを言いかえれば、柳生家初代の殿様もまた、相当の知恵者だったということになる。
 すると、です。
 今。
 じっと考えていらっしった八代将軍吉宗公、ニッコリ微笑をお洩らしになったかと思うと、
「ハハア、そうか」
 まるで口まねだ。
 と同時に、手にしていた壺をキッと見すえた吉宗、
「この中だな、この蓋の……」
「恐れ入りましてございます」
 越前守と愚楽老人、一度にそこへ平伏した。畳をなめそ
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