すり泣いて、
「何言ってやんでえ、おいらアうれしくッて泣いてるんじゃアねえや。あたいの父《ちゃん》は大名か。ヘン、なアンだ。お大名の父《ちゃん》なんざあ、このチョビ安兄ちゃんは用はねえんだ。そうわかったら、一度にお座が覚めちゃったい。おいらの父《ちゃん》はやっぱりこのお侍さん。ねえ、お父上、いつまでもお父上でいておくれねえ……むこうの辻のお地蔵さん、ちょっときくから教えておくれ――なんでえ、おらあ大名の子なんかじゃあねえや、トンガリ長屋の安|兄哥《あにい》だい」
ドッとあがる笑いのなかには、言い知れぬ涙が含まれて。
左膳とお藤が、両側からチョビ安の手を――左膳ははずかしがる萩乃の手を取って、源三郎とならんで歩かせました。
泰軒だけは、一人ぽっちの大道せましと、江戸へ江戸へと、一同帰りの旅路に。
作阿弥は、やはりもとのトンガリ長屋の作爺さん。お美夜ちゃんとチョビ安と、母親の本性をとり戻したお蓮様と、楽しいくらしが続くに相違ない。
江戸へはいるすこし手前で、お藤の手を振りきった左膳は、萩乃と源三郎を祝福しながら、煙のごとく消息を絶ったという、伊賀の暴れン坊とは惜しい未勝負のまま。
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