の不覚だった。
 刀を帯しているのは、結城左京《ゆうきさきょう》ほか、二、三人だけ。
 他の連中は、商人や百姓に扮《ふん》したまま、穴埋めに出て来たのだから、納屋にころがっていた鍬《くわ》や鋤《すき》をひっかついでいる……これでは、いまここへ現われた異様な人物に、対抗のしようがない。
 物置小屋へひっかえして、両刀を取ってくる――一同の頭にひらめいたのは、このことだった。
 合惣《がっそう》を肩までたらし、むしろのような素袷《すあわせ》に尻切れ草履《ぞうり》。貧乏徳利をぶらさげて、闇につっ立っている泰軒先生――……これを泰軒先生とは知らないから、司馬道場の連中は、めっぽう気が強い。
 結城左京が一歩進み出て、
「われらは、火事に焼けた当家の者、あと片づけに来たまでのことです。どなたか存ぜぬが、何やら言いがかりをつけられるとは、近ごろもって迷惑至極――」
「夜中《やちゅう》をえらんで焼け跡の整理とは、聞こえぬ話だ。穴でも埋める仕事があるなら、わしも手つだってやろうかと思ってナ」
 左京は、つと仲間をふり返って、
「こいつはおれが引きうけた。かまわぬから、すぐ埋めにかかれ」
「小父ちゃん、
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