小石の影や、土の色がうっすらと見えてきた。東が白みかけたのだ。まもなく、途中ですっかり夜が明けはなれたので、疲れきったお露は、通りかかった辻駕籠《つじかご》を呼び止めて、早朝の女の一人歩きにいぶかしげな顔をしている駕籠かきへ、
「あの、駕籠屋さん、お父《とっ》さんが急病なんですが、お父さんのかかりつけのお医者様が、本郷の妻恋坂にいましてね、そこまでいそいで迎いに行きたいんですけれどやってくださいな」
 とお露、さっそくの機転でそう言った。そして、駕籠屋のうなずき合うのを待って、裾で足を包んだお露、スルリと乗りこんだのです。

       二

 ずいぶん気の長い話……だが、双方、意地になっているのだ。
 妻恋坂、司馬道場の屋敷内には、まだふしぎな頑張《がんば》り合いがつづいている。
 軒を貸して母家《おもや》を取られる――ということわざがあるが、まさにそのとおり。
 宏大な屋敷のほんの一部に、お蓮様、峰丹波など、以前からの不知火《しらぬい》道場の連中が追いつめられて、これは、小さく暮らしているに反し、奥のいちばんよい住居《すまい》のほうは、伊賀侍の一団が占領して日夜無言のにらみ合い。
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