名にし負う千本松原……。
店開きにはもってこいの背景だと、たちあがった左膳、ガサガサ藪を分けて松のなかを進んでゆく。
まるで友達とでも話しにゆくようだ。
変な浪人が現われたナ、とじっと立ちどまってこっちを見ている竹田へ、左膳引きつったような笑顔で話しかけた。
「どなたのお壺かな?――イヤ、誰の壺でもかまわねえ。ひとつ、口あけだ。威勢よく斬らせてもらおうじゃアねえか、なア」
左の手は、相変わらず懐中にのんだままだ。
丹下左膳、頼むようにそう言った。
三
剣意しきりに動く丹下左膳。
こういうときの左膳は、ふだんとグッと人が変わるのである。へいぜいは石炭がらのように、人ざわりのガラガラした、無口な、変な隻眼を光らせている男だが……。
腰間《こし》の濡れ燕に催促されて、「人が斬りたい、人が斬りたい!」と、ジリジリ咽喉《のど》がかわくような気分になったときの丹下左膳は。
とてもにこやか[#「にこやか」に傍点]な、やさしい人間になるんです。蝋のような蒼白い頬に、ポッと赤らみがさして、しきりに唇をなめるのは、なんのしるしか。
「なあおい、せっかくここまで、あと
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