ねえ」
苦笑したお藤、ヒステリカルな癇癪を起こして、一人っきりの家で髪をかきむしったり、茶碗をぶつけて割ったり……それも一人相撲と気のついたあげくは、通りがかりの屑屋を呼んであのこけ猿の茶壺を二束三文どころか、ただでくれてしまった。
ブラリと旅に出たんです。住みなれた尺取り横町の長屋に、ベタリと貼られたかしや札。
尺取り虫を踊らせる、奇態な女芸人がいるところから、人呼んで尺取り横町……その名物の本尊がなくなった。
「笠ひとつに、三味線一丁、それにこのかあいいお虫さんさえいれば――」
荒い滝縞に、ずっこけに帯を巻いて、三つに折れるたたみ三味線と、商売道具の尺取り虫、それを小さな虫籠に入れたのを、長い袂へほうりこんだお藤、思いきりよく江戸をあとにした。
奇妙な俗説があります。頭のテッペンから足のさきまで、この尺取り虫に尺を取られると、命がないという。
嘘かほんとうかわからないが、櫛巻お藤、それを信じている。
信じて疑わない。
で、ふだんなら尺取り虫を飼って、弾く三味線の音《ね》につれ、何匹もの虫が背を高く持ちあげては、伸びたり縮んだりしてはいまわる。それが、いかにも虫の踊り
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