お藤姐御は、キョトンとした眼を見はって、ふしぎそうにまじまじと、相手の顔を見上げるばかり。
 さて、ここで物語はとびます。
 そう駕籠わきの侍が、つづけざまに弁じたてても、駕寵のなかの一風宗匠はキョトンとした眼をすえて、まっすぐ正面をまじまじとみつめているばかり。
「江戸からの報告は、いまだに思わしくないことのみ。御在府の御家老田丸主水正様、捜索隊長の高大之進殿、いずれも何をしているのでござりましょうなア。もはやこけ猿がみつからぬときまれば、日光御修営はいかがになるのでございましょう」
 長旅の退屈まぎれに、話し続ける高股だちの武士は、ふっ[#「ふっ」に傍点]と気づいて、また苦笑をもらした。
「おう、そうであったナ。どうもいけない。一風宗匠は筆談以外には、話ができないということを、おれはすぐに忘れて……これではまるでひとりごとだ、あはははは」
 そのお駕籠には、柳生藩のお茶師、百と何歳になるかわからない奇跡的な藩宝、一風宗匠がゆられているのです。
 前を行く駕籠ひとつ――これはいうまでもなく伊賀藩主、柳生対馬守様。
 御行列です。突然出てきたのです、柳生の庄を。
 待ちくたびれたのでし
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