もって感銘いたした。余の恩人であるのみならず、聞けば今宵、まさに丹波の手に渡らんとした道場を、邪魔だてしてすくってくれたのも、かの左膳――」
「それよりも」
 と萩乃は、もじもじあかくなりながら、
「わたくしをここへ連れてくれましたのが、何よりうれしくて……部屋へふみこまれていきなり横ざまに、抱きかかえられたときには、この身はどうなることかと思いましたけれど――」
 明け方の色の、かすかに動きそめた室内。源三郎はこの萩乃など、なんとも思っていないくせに、さもさも恋人同士のよう、膝を突き合わせんばかりに話しこんでいる。その言葉に伴奏をいれるかのように、あるかなしの音をたてて背戸口から流れこんでくるのは、岸を洗う三方子川の夜の水。
 相手が女でさえあれば、変に思わせぶりなそぶりを見せるのが、この不良青年柳生源三郎の、いつもの手なんだ。
 そんなこととは知らないから、かわいそうに萩乃、もうこの人のためには家もいらない、命もいらないとまで思いこんでいるようす。
 あんなに自分をしたう左膳の胸中は、つゆほども知らずに、悪魔的な源三郎を恋いこがれるなんて、人の心はどうしてこう食いちがうのでしょう。
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