煙のように浮動している――あわい闇夜。
 なかば気を失った萩乃は、左膳の口の濡れ燕から、しずくのように落ちる血が、その白い首筋に、二筋三筋の赤縞をえがいているであろうのを、かすかに意識しただけだった。
 口をきけば、刃が、愛する萩乃の上へ……左膳は、重い大刀をグッと歯にかんだまま、ハッハッと吐く荒い息が、萩乃の顔へ、肩へ。
「あなたは、いつぞや門之丞を斬ったお浪人、どうして今夜、またあの鎧櫃のなかへなど忍んで――そして、わたくしをさらい出して、どうなさろうというのでございます」
 必死にもがく萩乃、匹田《ひった》の帯あげがほどけかかって、島田のほつれが夜風になびき、しどけない美しさ。乱れた裾前に、処女《むすめ》の素足は、夜目にもクッキリと――。
 答えぬ左膳の恐ろしさに、萩乃は、はじめて気がついたように、
「アレイ、誰か来て! 狼藉者……!」
 さけぼうとする口を、横ざまに萩乃の胸にかかっていた左膳の左手が、ムズとふさぐ。
 振りかえれば、灯のもれる道場は、大混乱だ。何人、何十人、イヤいく十人かの死体が、そこにころがっているのであろう。人々は、左膳を追うことも忘れているらしく、屋敷ぜん
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