幽閉されている家へ、裏からなだれ込んだときは……。
 家の中には、二人の影はなく。
 唖の娘がただ一人、ポツネンとすわったまま、左膳と源三郎へ向かってしきりに日光の町のほうを指さしてはもの言いたげな風情《ふぜい》を示すのみ。
「そうだッ! 護摩堂の壁へ――と、求援の文《ふみ》にあった。これは急がねばまに合うまい」
 気づいた左膳がさきに立って、一行はただちに造営奉行所に近い護摩堂へと、かけつけたのだった。
 乱闘の場《にわ》……火は、こうして起こったのです。

       三

 暴風雨《あらし》にまぎれて、求援状を封じこめた竹筒を、お美夜ちゃんに持たして裏山づたい、谷川の流れに投げこんだものの……。
 いつ誰の眼に触れて、拾いあげられようという当てもない。
 言いようもない心細さのうちに日は容赦なくたつ。同時に、眼に見えない人がきはぐるりと幾重にも、その監禁の家をとり巻いて――。
 と、今宵。
 その眼に見えない牢格子の扉が、ギイッと音なき音をたててあいたのです。
「サ、お美夜や、もうこうなったら助かりようはありません。たとえどんなことになろうと、あたしとお前は、母と娘として、いつまでも離れないように、一つ壁の中へ塗りこめられるのだから、せめてはそれを喜びにして、いっしょに死んでおくれ、ねえお美夜」
 母と娘のきずなをそのままに、人柱として永遠に残ることが、お蓮様には、かえってこのうえもない満足。
 人間、死を覚悟すると、すぐあとに幸福感がつづく。
 お美夜ちゃんとお蓮様は、手をとり合ったまま、護摩堂の中へ連れこまれたのだったが。
 このとき! 十重二十重《とえはたえ》にとり巻く警護の武士が、ドッ! とどよめきだったかと思うと、左膳の濡れ燕が闇にひらめいて!
 源三郎にしてみれば、この造営を受け持っているのは兄の対馬守。やいばをふるってたち向かっては、同じ家中の者どもを手にかけねばならぬ。
 といって、あわれな母娘《おやこ》が人柱などという、荒唐無稽な迷信の犠牲にならんとしているのを、黙視するには忍びない。
 したがえてきた部下三人に、すばやく耳うちをした伊賀の暴れん坊。
「左膳の狼藉をとりおさえるがごとく見せかけて、彼が母娘の者を連れて脱出する、その逃げ道をつくってやれ、よいか。ぬかるナ!」
 というわけ。四人はいっせいに抜きつれたが、左膳をとり巻いてやたらに
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