急な崖《がけ》を谷底へたどり着いたチョビ安と泰軒先生。
「お爺ちゃん! あたいだよ、安公だよ! 泰軒小父ちゃんもいっしょだよ。江戸からお前をたずねて来たんだ。あけてくんねえ」
いぶかしそうに戸をくった作爺さんが、顔を出して、
「おお安ッ! これはこれは、泰軒先生も」
「さまざまの話はあととして」
と泰軒居士は、いつになくあわてぎみに、
「さっそくじゃが、お美夜坊とお蓮はここにたずねてこんかったかな?」
「ナニ、お美夜とお蓮も、この日光へ来ているのじゃと?……ははあ!」
ポンと平手を打つと同時に、サッと顔色を変えた作阿弥、
「思い当たることがありますわい。母と娘の旅の者を、人柱に捕えたということを聞いたが、さては――」
「サ、われらがうれうるもそのこと。一刻もはやく救い出さねば……と申して、どこにかくされているものやら」
突然、チョビ安が、うしろの山の上を指さして、
「あッ、たいへんだたいへんだ! 山火事じゃないかしら」
さけぶ声に、泰軒と作阿弥が振りあおいで見ると、なるほど……日光の町のかなたに当たって、一団の焔が炎々と空をこがしている。
「町はさわぎらしい――ウム! このどさくさにまぎれて探せば、ひょっとすれば、知れぬこともあるまいと思われるが」
「とにかく、一刻をあらそう場合」
作爺さんは何を思ったか、仕事部屋の板敷を一足とびに、その奥の土間へかけこんだかと思うと、
「これ! 足曳《あしびき》や、われとおらあながいあいだ、ひとつ屋根の下に暮らして、たがいに気心も知り合ったなかだ。今おれの娘と孫娘が、むごたらしく人柱にされようという瀬戸ぎわだ。一つ、存分に働いてくれよなア……」
と、まるで人にもの言うよう……にわかにくつわ[#「くつわ」に傍点]を取りつけ、裸馬のまま引き出してきたのへ、
「うむ、これは思いつき!」
ととび乗る泰軒居士、身の軽い老人と子供のことだから、作阿弥とチョビ安を前後にかかえこんで、三人を乗せた名馬足曳は、一路焔を望んで、道なき山道を日光の町へ――。
二
「おお、かようなところに、小流れがある」
と、足もとの闇をすかして、源三郎が言った。
やっとのことで、一行が日光の町の下までたどり着いた夜中。
眼の前には、真っ黒な山が切り立つようにそびえて、はるか上の断崖のふちに、雑木林にかこまれた一軒家の灯が、何事か
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