葬にするのじゃ。これでは、いかな伊賀の暴れン坊も、またかの丹下左膳といえども、二つの命がないかぎり、二度とわれらの面前に立つことはなかろう。いや、これで仕事はできあがったというものじゃ。では、われら一足先へまいるからナ」
言葉を残して、丹波の一行はそのまま、さながら悲しみの行列のように、底深い夜の道へと消えて行く。
お蓮様のみは、これでいよいよ源三郎が地底の鬼となるのかと思うと、さすがに、心乱れるようすで、
「今となって、源様を助けようとも思わなければ、また、もう手遅れにきまっているけれど、せめては、水につかった死骸なりと引きあげて、回向《えこう》を手向《たむ》け、菩提《ぼだい》をとむらうことにしたら……」
その声を消そうと、峰丹波は大声に、
「御後室様、おみ足がお疲れではございませぬか。サア、出発、出発!」
と、さけんだ。
十一
お蓮さまはそれでも、後ろ髪を引かれる思い。
「源様ッ!――源三郎さまッ!」
胸をしぼるような最後のひと声。
かけもどって、おとし穴をのぞこうとするお蓮様に、きっと眼くばせして丹波が下知。ほとんど手取り足取りにかつがんばかり……。
前後左右からお蓮様をとりかこんで、行列は、歩をおこして去った。
あとには、穴埋め役の一同。
生あたたかい風の吹く深夜の焼け跡に同勢七、八人、あんまり気持よからぬ顔を見あわせて、
「穴の底におぼれてるやつを、土で埋ずめりゃア、これほど確かな墓はねえ。目印に、捨て石の一つもおっ立てておいてやるんだな」
「後年、無縁仏《むえんぼとけ》となって、源三郎塚……とでも名がつくであろうよ」
しめった夜気に首をすくめて、誰かが大きなくさめ。
「ハアックショイ! そろそろ始めようではござらぬか」
「フン、気のきかねえ役割だ。こんな仕事は、早くすませるにかぎる」
「しかしなア、なるほど穴は、細いものにすぎぬが、下へいって、かなり大きな部屋に掘りひろげてあるというではないか。そこまで埋めるとなると、七人や八人では、朝までかかっても追いつくまい」
「そうだ、最初に、大きな石の二つ三つもころがしこんで、穴の途中をふさぎ、その上から土をかぶせればよいではないか」
それは思いつきだとばかり、結城左京《ゆうきさきょう》をはじめ二、三人が、手ごろの石を見つけにあたりの闇へ散らばって行く。
ほかのやつらは
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