意を安んじようという心から、生きた人間を柱の根へ打ちこんだり、橋杭《はしくい》をだかせたまま河へ沈めたりする……これを人柱という。
なかでも、有名なのは――。
「雉子《きじ》もなかずば射たれまい」の長柄川《ながらがわ》の故事で、これは誰でも知っていますが。
弘仁《こうにん》のころとか、長柄川に橋をかけようという大工事です。何千という人夫、大工を使い、幾万の費用をつぎこんでも、濁流とうとうと渦まいて、水の力はおさえるべくもありません。さかまく水勢をながめて、拱手《きょうしゅ》傍観のありさま。
橋はいつできるかわからない。
赤手空拳《せきしゅくうけん》の人間力と、自然とのたたかい――あふれんばかりの大河をはさんで、木材や石をかついだ烏帽子《えぼし》水干《すいかん》の人たちが、蟻《あり》のように右往左往する場面を想像してください。
すると……。
誰いうとなく、水神《すいしん》に人柱をささげねば、橋はとうていかかりっこないという噂が、両岸の群集のあいだにとんだのです。
そこで。
この人柱になるべき者をとらえるために、関所を設けて、長柄《ながら》の役人が詰めているところへ、たまたま通りかかったのが垂水村《たるみむら》の岩氏《いわうじ》という人。
「なんの騒ぎです」
と人々にきいた岩氏は、よせばいいのに、
「ははア、それはなんでもないことじゃ。袴《はかま》に継《つ》ぎのある者を見つけだして、それを人柱にすればよい。なんと名案であろうがな」
と言った。
いいだしたものが当たるというのは、よくあることで、袴のつぎとはおもしろい思いつきだというので、一同がめいめいの袴をあらためてみると。
なんと! 岩氏自身の袴に横継ぎがあった。で、否応《いやおう》なしにつかまえられて、岩氏はこの長柄川の人柱にされてしまったのです。
この岩氏の娘に、非常な美人があった。父の弔《とむら》いに大願寺を建て、一生孤独で終わろうとしたのだったが、その並みならぬ容色にこがれて言いよる若者のうちで、ひときわ熱烈なひとりの情にほだされて、河内《かわち》の禁野《きんや》の里に嫁《か》したのです。
しかし、父の最期にこりて、口はわざわいのもととばかり、かたく口をとざして唖《おし》でおしとおしたので、いくら惚れた男でも、これでは人形といるようでおもしろくない。
結婚解消……となって、女は垂水
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