かい?」
「ええ、ちょっとね。でも、たいしたことはないわ」
「ほんとにおめえには、気の毒だよ。遊びてえ盛りを、こうやっておいらといっしょに、日《ひ》がな一|日《にち》辻に立って、稼業《しょうべえ》するんだからなあ」
とチョビ安、言うことだけ聞くと、いっぱしの大人が子供を相手にしているようだ。
遊びたい盛りなんて、自分《じぶん》はいくつだと思っている。
こまかい藍万筋《あいまんすじ》の袖へ、片手を突っこんで、こう、肩のところで弥造《やぞう》をおっ立てたチョビ安。
吉原《よしわら》かぶりにしていた手拭を、今はパラリと取って二つ折り、肩《かた》にかけています。
下目《しため》に、横っちょで結んだ算盤絞《そろばんしぼ》りの白木綿《しろもめん》の三尺が、歩くたんびにやくざ[#「やくざ」に傍点]にねじれる。
身幅《みはば》の狭い着物ですから、かあいい脛《すね》がチラチラ見えて。
その意気なことったら、ほんとに、見せたいような風俗。
にがみばしった――と言いたいところですが、顔だけはどうもしようがない。これで顔にむこうッ疵《きず》でもあれば、うってつけの服装《つくり》なんですが、それこそ、辻のお地蔵さんへあげるお饅頭みたいな、愛《あい》くるしい顔だ。
片手に、お美夜ちゃんの手を引いて、
「なア、これで泰軒先生に、今夜も寝酒の一|杯《ぺい》もやってもらえようってもんだ」
「ねえ、安さん……」
とお美夜ちゃんは、チョビ安のこまっちゃくれたのがうつったのか、これも、いつからともなくませた口をきく。
「あたいね、毎日のことだけど、いつもあすこんところでは泣かされちゃうのよ――あのホラ、あたいの父《ちゃん》はどこにいる、あたいのお母《ふくろ》どこへ行った、で、あたしがネ、こう、手をかざして、お父《とっ》ちゃんやお母《っか》ちゃんを探してまわる物狂《ものぐる》いのところね――何度やっても、あそこは身につまされるわ。きょうも涙ぐんだの」
「おいらもそうだよ。どうもあすこはいけねえ。思わず涙声になっちまって、こっぱずかしくっていけねえや。だけどなア、考えてみると、おいらのような運の悪いものも、またとねえだろうよ」
お美夜ちゃんは、その小さな手で、ギュッとチョビ安の手を握りかえして、
「アラ、思い出したように、どうしてそんな心細いことを言うの? あたい、泣きたくなっちゃうわ」
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