手を重ねて、身もだえしながら狂乱の体《てい》……これでおしまいです。
 チョンと鉦《かね》を打ち上げたチョビ安、
「オオ、お立ちあいの衆、この中にも、親の気も知らずに悪所通いに身をもちくずして、かけがえのねえ父《ちゃん》やお母《っか》あに、泣きを見せているろくでなしが、一匹や二匹はいるようだが、おいらの唄で、胸に手を置いてとっくり考えてみるがいいや。なあ、お美夜太夫」
「ええ、そうよ、そうだともサ」
 と美夜ちゃんは、なんでも合いづちを打つ役目。
 群衆がちょっとしんみりしたところをねらって、チョビ安大声に、
「ヤイヤイッ! 何をポカンとしてやがるんでエ! おいらもお美夜ちゃんも、おまんまをいただかずに踊ったり唄ったりしてるんじゃアねえや。と、これだけ言ったらわかろうじゃねえか。サア、たんまりお鳥目《ちょうもく》を投げたり、投げたり! チャリンといい音《ね》のする小判の一|枚《めえ》や二|枚《めえ》、降ってきそうな天気だがなア」
 と、大きなことを言う。
 投げ銭の催促です。

       三

「オウ、こちとらアナ、何もてめえッちに感心してもらおうと思って、唄ったり踊ったりしてるんじゃねえや」
 チョビ安は、小さな握りこぶしで、鼻の頭をグイとこすり上げながら、
「エコウ、ほめてばかりいねえで、銭を投げなってことヨ。オイそこへゆく番頭さん、金を集める段になって、逃げるッてえテはねえぜ。なんでエ、しみったれめ!」
 一流の毒舌が、チョビ安の場合にはかあいい愛嬌《あいきょう》となって、あっちからも、こっちからもバラバラッと小粒が飛ぶ。
「むやみにほうらねえで、どうせのことなら、おひねりにしてくんねえ。お賽銭《さいせん》じゃアねえんだ」
 拾い集めた小銭を、両手の中でお美夜ちゃんの耳へ、ガチャガチャと振ってみせて、
「太夫さん、お立ちあいの衆がこんなにお鳥目をくだすったよ。お美夜ちゃんからも、お礼を言ってくんねえナ」
「まア、ほんとうにありがとうございます」
 お美夜ちゃんは恥ずかしそうに、唐人髷《とうじんまげ》の頭を、まんべんなくまわりへ下げる。
 そのあいだチョビ安《やす》はうしろの町家の天水桶《てんすいおけ》のかげにしゃがみこんで、地面へ敷いた手拭の上へ、
「一|枚《めえ》、二|枚《めえ》……」
 と銭を数え落としていたが、立ちあがって見物のほうへ向かい、
「オイ
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