も御苦労な話で。
 で、殿様につぐ第二の鍬は、一風宗匠。
 非常な老齢ですから、立っているだけでせいいっぱいだ。むろん、とても鍬なんか持てやしない。高大之進が鍬を持って掘るまねをすると、人の介添《かいぞえ》で一風がちょっと手を添えただけだ。
 こうして地中から取り出した金は、案の定、やっと日光の費用に間に合う程度だったが、これで柳生は、ともかく助かったというもの。
 ここに、床の間いっぱいにあふれるように、三宝にのせて飾ってあるのが、こうしたからくり[#「からくり」に傍点]のひそむ金であります。
 そんなこととは知らないから、信濃守はうらやましそう。しきりに感心していると、柳生対馬守は事務的に相談を進めて、
「サテ、お山止《やまど》めの儀でござるが……」
 と、言い出したとき、
「殿――」
 はるか廊下のかなたに、何ごとか知らせに来た侍《さむらい》の平伏する頭が、見えた。

       五

 はるか下がって、廊下に額を押し当てた若侍の声、
「申し上げます。ただいま……」
 ところが。
 だいたいこの柳生対馬守は、剛腹な人間の通例として、非常に片意地なところのあった人で、ふだんでも、気がむかないと、誰がなんと話しかけても知らん顔、返事ひとつしないことがある。
 おまけに、今は。
 お畳奉行別所信濃守様と、たいせつな日光着手の打ちあわせの最中ですから、対馬守、うるさいと言わぬばかり、ちょっと眉をひそめただけで、何事もなげに信濃守へ向かって、
「御承知のとおり、江戸から日光への往復の諸駅、通路、橋等の修理の儀は、公領のところは代官、私領は城主、地頭寺社領にいたるまで、すべてわれわれにおいて監督いたし、万《ばん》手落ちのないようにしなければならぬのですから――」
「お話ちゅうまことにおそれいりますが……」
 取次ぎの若侍が、そう一段声を高めるのを、対馬守はまた無視して、
「で、日光造営奉行が、拙者ときまりましてから、江戸にいる家老に申しつけて、日光を中心にした四十里の地方と、江戸からの道中筋、駅馬などを残らず吟味《ぎんみ》させましたところが」
「殿様! ちょっとお耳を!」
 どこ吹く風かと、対馬守はつづける。
「ところが、五石七石の田畑もちの小百姓はむろんのこと、田畑を多く持っている者も、馬を飼っている者は非常に少ない。まずこの、運搬に使用する馬の才覚が、このさい第一か
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