を払ったので、火打ちのように、青い火花が咲き散った。
「ウム、丹下左膳に悪寒《さむけ》をおぼえさせるのア、おめえばかりだぞ」
言いながら左膳、おろした刀をそのまま片手突きに、風のごとく踏みこんだのを、さすがは柳生の若様、パパッと逃げて空《くう》を突かせつつ……フと気がつくと、二人の周囲をぐるりかこんで、一面の剣輪、剣林――。
筑紫の不知火が江戸に燃えたかと見える、司馬道場の同勢だ。
気を失った峰丹波の身体は、手早く家内《なか》へ運んだとみえて、そこらになかった。
この騒ぎが、奥へも知れぬはずはない。庭を明るくしようと、侍女たちが総出で雨戸を繰り開け、部屋ごとに、縁端《えんばた》近く燭台を立てつらねて、いつの間にか、真昼のようだ。廊下廊下を走りまわり、叫びかわすおんな達の姿が、庭からまるで芝居のように見える。
左膳は、一眼をきらめかせて、源三郎をにらみ、
「なお、おい、源公。乗合い舟が暴風《しけ》をくらったようなものよなア。おれとおめえは、なんのゆかりもねえが、ここだけアいっしょになって、こいつらを叩っ斬ろうじゃアねえか」
十
はからずも顔をあわせ、焼刃《や
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