ときいた。
眼をトロンとさせて、酔ったようによろめきたっている左膳は、まるで、しなだれかかるように源三郎に近づき、
「誰でもいいじゃアねえか。おれア、伊賀の暴れン坊を斬ってみてえんだ。ヨウ、斬らせてくれ、斬らせてくれ……」
甘えるがごとき言葉に、源三郎は、気味わるげに立ちあがって、
「妙《みょう》なやつだ」
つぶやきながら、倒れている丹波のそばへ行って、
「カカカ借りるぞ」
と、その握っている刀をもぎとり、さっと振りこころみながら、
「植木屋剣法――うふふふふふ」
と笑った。
変わった構えだ。片手に刀をダラリとさげ、斬っさきが地を撫でんばかり……足《そく》を八の字のひらき、体をすこしく及び腰にまげて、若い豹《ひょう》のように気をつめて左膳を狙うようす。
一気に!――と源三郎、機を求めて、ジリ、ジリ! 左へ左へと、まわってくる。
濡れ燕の豪刀を、かた手大上段に振りかぶった丹下左膳、刀痕の影を見せて、ニッと微笑《わら》った。
「これが柳生の若殿か。ヘッ、青臭え、青臭え……」
夜風が、竹のような左膳の痩せ脛に絡む。
九
「おウ、たいへんだ! 鮪《まぐろ
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