いって峰の殿様にきりだしたら……と与吉が、とつおいつ思案して、軽い裏木戸も鉄《くろがね》の扉の心地、とみにははいりかねているところへ、その木戸を内からあけて、夕やみの中へぽっかり出てきた若い植木屋――。
一眼見るより、与吉、悲鳴に似た声をあげた。
「うわあッ! あなた様は、や、柳生源……!」
二
「シッ! キ、貴様は、つ、つづみの与吉だな」
と、その蒼白い顔の植木屋が、つかえた。
根岸の植留の弟子と偽って、この道場の庭仕事にまぎれこんでいる柳生源三郎……ふしぎなことに、職人の口をきく時は、化けようという意識が働くせいか、ちっともつかえないのに、こうして地《じ》の武士《さむらい》にかえると、すぐつかえるのだ。
「ミ、三島以来、どうやら面《つら》におぼえがあるぞ。壺はいかがいたした。こけ猿は――」
と眉ひとつ動かさずに、きく。
与吉は、およぐような手つきで、あッあッと喘《あえ》ぐだけだ。声が出ない。
どうしてこの伊賀の暴れん坊が、当屋敷に?……などという疑問は、あとで、すこし冷静になってから、与吉のあたまにおこったことで、この時は、つぎの瞬間に斬られる!――と
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