あとを見ていたお藤は、やおらムックリ起きあがって、手を伸ばして三味線をとりあげました。
 すぐ弾きだすかと思うと、さにあらず、押入れをあけて、とり出したのは、中を朱に、ふちを黒に塗った状箱です。紐をほどく。ふたを除く――。
 そして、お藤、まるで人間に言うように、
「さア、みんな、しっかり踊るんだよ」
 と! です。おどろくじゃアありませんか。その状箱からぞろぞろ這い出したのは、五、六匹の尺とり虫ではないか――。
 同時に、お藤、爪びきで唄いだした。
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「尺取り虫、虫
  尺とれ、寸取れ」
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       四

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「尺取り虫、虫
尺とれ、寸とれ
寸を取ったら
背たけ取れ!
尺とり虫、虫
尺取れ、背とれ
足の先からあたままで
尺を取ったら
命《いのち》取れ!」
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 こういう唄なんだ。命とれとは、物騒。
 こいつを、お藤、チリチリツンテンシャン! と三味《しゃみ》に合わせて歌っているんでございます。
 畳のうえには、五匹ほどの尺とり虫が、ゾロゾロ這っている。まことに妖異なけしき……。
 トロンと空
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