暴れン坊の婿引出、柳生流伝来の茶壺こけ猿であろう。鬱金《うこん》のふろしきに包んだ、高さ一尺五、六寸の四角い箱だ。
「おや、いよいよきょうは一件を持って、お出ましかえ」
と笑うお藤の眼を受けて、
「あい。あんまり長くなるから、ひとつ思い切って峰丹波さまへこいつをお届けしようと思いやしてネ」
「だけど、伊賀の連中は、眼の色変えて毎日毎晩、品川から押し出して、江戸じゅう、そいつを探してるというじゃないか。もう、大丈夫かえ?」
「なあに――」
与吉の足は、もう土間へおりていました。
三
櫛は野代《のしろ》の本ひのき……素顔自慢のお藤姐御は、髪も、あぶら気をいとって乱したまんま、名のとおり、グルグルっと櫛巻にして、まア、言ってみれば、持病が起こりましてネ、化粧《みじまい》もこの半月ほど、ちっともかまいませんのさ、ようようゆうべひさしぶりで、ちょいと銭湯へはいったところで――なんかと、さしずめ春告鳥《はるつげどり》にでも出てきそうな、なかなかうるさい風俗。
ここんところ、ちょっと、お勝手もと不都合とみえて、この暑いのに縞縮緬《しまちりめん》の大縞《おおしま》の継《つぎ》
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