イヤ、これはどうも、仰せのとおりで」
と、男は、ニヤリと笑いつつ煙管《きせる》をおさめて、
「じゃ、たばこはあきらめましょう。だがネ、お嬢さん、どうしてもあきらめられないものがあるとしたら、どうでございますね、かなえてくださいますかね」
と、その鋭い眼じりに、吸いよせるような笑みをふくんで、ジロッと見据えられたときに、萩乃は、われにもなく、ふと胸がどきどきするのを覚えた。
不知火流大御所のお嬢様と、植木屋の下職……としてでなく、ただの、男とおんなとして。
なんてきれいなひとだろう、情《じょう》の深そうな――源三郎さまも、こんなお方ならいいけれど。
などと、心に思った萩乃、じぶんと自分で、不覚にも、ポッと桜いろに染まった。
でも、源三郎様は、この植木屋とは月とすっぽん、雪と墨《すみ》、くらべものにならない武骨な方に相違ない……。
オオ、いやなこった! と萩乃は、想像の源三郎の面《おも》ざしと、この男の顔と、どっちも見まいとするように眼をつぶって、
「無礼な無駄口をたたくと、容赦しませぬぞ。ここは、お前たちのくるところではありませぬ。おさがり!」
「へへへへへ、なんかと、その
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