機嫌がわるい。
「城の屋根が洩って蓑《みの》を着て寝る始末じゃ。大藩などとは、人聞きがわるい」
 きょうは、すべていうことが逆だ。
「何を言わるる。鉄瓶と馬でしこたまもうけておきながら……」
「もうけたとはなんだ! 無礼であろうぞ!」
 南部侯、むきだ。
 金持といわれることは、きょうは禁物なのである。
 とたんに、この大広間の一方から、手に手に大きな菓子折りを捧げたお坊主が多勢、ぞろぞろ出てきて、一つずつ、並《なみ》いる一同の前へ置いた。
「愚楽さまから――」
 という口上だ。一眼見ると、みんなサッと真っ赤になって、モジモジするばかり。ふだんから赤い京極飛騨守などは、むらさきに……。
 おん砂糖菓子――とあって、皆みな内密に、愚楽老人へ賄賂に贈ったものだ。おもては菓子折りでも、内容《なか》は小判がザクザク……愚楽の口ひとつで日光をのがれようというので、こっそり届けたのが、こうしておおっぴらに、しかも、一座のまえで、みんなそのまま突っ返されたのだから、オヤオヤオヤの鉢あわせ。
 あわてて有背後《うしろ》に隠して、おやじめ皮肉なことをしやアがる……隣近所、気まずい眼顔をあわせていると、シ
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