伊賀のあばれン坊、裃《かみしも》の肩を片ほうはずして、握り太の鞭を、群衆の頭上にふるう。
 乱暴至極――。
 ちょうど撒銭のたけなわなところで。
 熱湯の沸騰するように、人々の興奮が頂点に達した時だから、たちまちにして、輪に輪をかけた混乱におちいった。
 馬列の通路にあたった人々こそ、えらい災難……。
 空《くう》に躍る銭をつかもうと夢中の背中へ、あらい鼻息とともに、ぬうっと、長い馬の顔があらわれて、あたまのうえで、ピューッ! ピュッと鞭がうなり、
「ム、虫けらどもっ! 踏みつぶして通るぞっ!」
 というどなり声だ。柳生源三郎、街の人など、それこそ、蚤か蚊ぐらいにしか思っていないんで。
 いまだ自分の意思を妨げられたことのない彼です。思うことで実現できないことが、この地上に存在しようなどとは、考えたこともない。
 癇癖《かんぺき》をつのらせて、しゃにむに、馬をすすめ、
「ヨヨ、余の顔を知らぬか。ば、馬足にかかりたいか、ソソそれとも、柳生の斬っさきにかかりたいか、のかぬと、ぶった斬るぞっ!」
 どっちにしたって、あんまり望ましくないから、群衆は命がけで犇《ひし》めきあい、必死に左右に押し
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