喪主《もしゅ》のつぎ、会葬者の第一番に焼香する資格があるのだ。
「うめえ話じゃアねえか」
 と、吉をとりまく職人たちは、ワイワイひしめいて、
「妻恋小町の萩乃さまにじきじきおめどおりをゆるされるばかりじゃアねえ。次第によっちゃア、おことばの一つもかけてくださろうってんだ……まあ、吉《きっ》つあんじゃないか、会いたかった、見たかった。わちきゃおまはんに拾わせようと思って――」
「よせやい! 薄っ気味のわりい声を出すねえッ。チョンチョン格子の彼女じゃアあるめえし、剣術大名のお姫さまが、わちきゃ、おまはんに、なんて、そんなこというもんか。妾《わらわ》は、と来《く》らあ。近う近う……ってなもんだ。どうでえ!」
「笑わかしやがらア。おらあ、お姫さまのお墨つきの包みをいただいただけで、満足だ、ウフッ」
 なんかと、若いやつらは、儚《はかな》い期待に胸をときめかしております。
 群衆は刻々、増す一方――妻恋坂は、ずっと上からはるか下まで、見わたす限り人の海で、横町へはみ出した連中は、なんとかして本流へ割りこもうと、そこでもここでも、押すな押すなの騒ぎを演じている。
「やいッ、押すなってえのに!」
 
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