たしは神田《かんだ》ですが、昨夜から、これ、このとおり、筵を持ってきて、御門前に泊まりこみました」
「おや! あなたも夜明し組で。私は、夜中から小僧をよこして、場所を取らせて置いて、いま来たところで」
「それはよい思いつき、こんどからわっしも、そうしやしょう」
「それはそうと、たいした人気ですな。もう始まりそうなものだが……」
これじゃアまるで、都市対抗の野球戦みたいだ。
それというのが。
この司馬道場では。
吉事につけ、凶事につけ、何かことがありますと、銭を紙にひねって、門前に集まった人たちに、バラ撒く習慣《しきたり》になっていて、当時これを妻恋坂の不知火銭といって、まあ、ちょっと大きく言えば、江戸名物のひとつになっていたんです。
不知火銭……おおぜいへ撒くんだから、もとより一包みの銭の額《たか》は知れたものだが、これを手に入れれば、何よりもひとつの記念品《スーベニイル》で、そのうえ、禍《か》を払い、福を招くと言われた。マスコットとかなんとか言いますな、つまりあれにしようというんで、この司馬道場の不知火銭というと、江戸中がわあっと沸いたもんです。
慶事《よろこび》には……
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