と呻ったのは、対馬守です。主君から一伍一什《いちぶしじゅう》を聞いた高大之進《こうだいのしん》、大垣《おおがき》七|郎右衛門《ろうえもん》、寺門一馬《てらかどかずま》、駒井甚《こまいじん》三|郎《ろう》、喜田川頼母《きたがわたのも》の面々《めんめん》、口々に、
「惜しみてもあまりあること――」
「まだなんとか取りかえす途《みち》は……」
「イヤ、かのこけ猿の茶壺は、茶道から申して名物は名物に相違ござるまいが、門外不出と銘うって永代当家に伝わるべきものとしてあったのは、さような仔細ばなしござってか。道理で――」
「それを知らずに、源三郎様につけて差しあげたのは、近ごろ不覚千万!」
「迂濶《うかつ》のいたりと申して、殿すら御存じなかったのじゃから、だれの責任というのでもござらぬ。あの老いぼれの一風が、もうすこし早くお耳に入れればよいものを……」
「だが、かような問題が起こらねば、一風は死ぬ時まで、黙っておる所存であったというから――」
「おいっ! おのおの方、司馬道場への婿引出は、何もあの壺とは限らぬのだ。なんでもよいわけのもの。ただ、絶大の好意を示す方便として、御当家においてもっとも重
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